べにばらホテルのお客/安房直子コレクション5 恋人たちの冒険/偕成社/2004年/1987年初出
ある雑誌の新人賞を受賞した作家が、受賞第一作目をかくために、山小屋にたてこもっているところからはじまります。
「私」はホテルの物語を書こうとしますが、物語の主人公 北村治がどんな看板をつくろうか考え込むあたりで筆がとまってしまいます。
森の中を散歩しているとき、「私」は自分が書いていた物語の主人公にであって、そのあとをついていきます。
<べにばらホテル>と名付けられたホテル。もとトランペット奏者の岡本卓夫が三年前まで住んでいた別荘です。
そこには、料理や洗濯をうけもっているきつねが、白いエプロンをつけて出迎えてくれます。
「私」が案内された部屋の机には、T・Oのイニシャルが彫られていて、そのイニシャルにさわると、不思議なことがことがおこります。戸棚のトランペットが話しかけてきたのです。
三年も使われていなかったトランペットをぴかぴかにみがくと、今夜行われる開店パーテイで一曲やりましょうとトランペットが話しかけます。吹いたことがないという「私」に、トランペットは、ただ息を吹き込んでくれるだけでいいとこたえます。
開店パーテイの席には、山あじさいの青い花がかざられていましたが、お客は、うさぎ、かもしかの娘、青いマフラーをし、パイプをくわえたいのししだけです。しかし、トランペットがファンファーレをはじめると、りすの一家、ねずみの一族、たぬきの親子、いたちの夫婦が新しいお客としてやってきます。
乾杯をしようとすると、風の娘もあらわれ、鹿の婚約者をまってくれといいます。
このあと、きつねと「私」のどちらかが、このホテルの奥さんにふさわしいか料理対決をしようとなるのですが・・・。
ミソサザイ、スズメ、クロツグミ、ムクドリ、アオゲラ、アカゲラなど このお話のなかには、たくさんの鳥がでてきます。
トランペットの音が森じゅうにひびくと、鳥もけものも胸がいっぱいになるほど感動します。
音楽と動物というと「セロひきのゴーシュ」の世界。
ムネアカドリと結婚したという岡本卓夫。 「私」がバウムクーヘンをつくるため、トランペットを吹き鳴らすとムネアカドリの声で、バウムクーヘンの作り方を教えてくれるのですが・・・。
いつのまにか、物語の主人公に恋してしまった「私」。最後はほろにがい結末です。
なんともいえないメルヘンの世界です。
