
うしとトッケビ/文・イ・サンクォン 絵・ハン ビョンホ 訳・おおたけ きよみ/アートン/2004年
まず表紙のおなかが大きくなった牛をだいた困惑顔のトルセが、なんともいい味です。
韓国の昔話でおなじみのトッケビがでてきますが、ネコっぽく描かれています。
ある冬の日、トルセが牛を連れて帰る途中、術を使うのに必要なしっぽをかまれたトッケビが現れます。そして傷が治るまで二か月のあいだ牛のおなかに入れてくれるよう頼まれます。そのかわり牛の力を十倍にしてくれるというのです。
開いた口がふさがらないトルセでしたが、ことわればトッケビの子は、こごえて死んでしまうか、おなかをすかして死んでしまうだろうと思い、いまより十倍の力持ちにしてくれるのも悪くないと「どうしたらいいかい?」と、牛に聞く、牛はこっくりこっくりうなずきます。
なまけもののトルセは、薪売りをして暮らしていましたが、トッケビが牛のおなかにはいってからは、これまで十倍も薪を運ぶことができて、お金もたくさんたまります。
ところが約束の日がちかづいてくると、牛のおなかがどんどんふくれはじめます。トッケビが毎日横になっておいしいものを食べていたら、太ってしまい、牛からでられないというのです。
あくびをしてくれれば、そのとき ぱっと外にでられるというので、わきばらをつついてみたり、鼻の穴に、ながいぼうをつっこんっでみたり、くすぐったりしてみますが、あくびはでません。
トッケビは外にだしてくれたら、今度は牛の力を百倍にしてくれるはずでした。
トッケビがどんどん大きくなって、牛のおなかが破裂しては大変です。しかし、何でも知っているという老人までがいい知恵を教えてくれません。
思い悩むトルセでしたが・・・・。
結末はあっというまの出来事です。
百倍の力持ちになった牛をつれたトルセは 鼻歌をうたいます。「トッケビこぞうじゃなくっても たとえ こわい おばけでも かわいそうなら たすけなきゃ」。
人に親切にすれば、その相手のためになるだけでなく、やがてはよい報いとなって自分にもどってくるということ。
巻末に、近代韓国の代表的作家 イ・サン(1910-1937)の唯一の絵本という紹介がありました。
牛を馬に、トッケビを悪魔におきかえると、日本の豊島与志雄さんの「天下一の馬」に類似しているということです。
しかし、世界各地に同じような話があり、さらにさまざまな形で再話もされていますから、翻案というのは意識しなくてもよさそうです。
