ウェン王子とトラ/チェン・ジャンホン・作絵 平岡敦・訳/徳間書店/2007年
表紙には、トラの口の中で眠っているウェン王子の姿。大型絵本より一回り大きい絵本ですが、最初から最後までトラの存在感が抜群です。
ウェン王子が、トラのところで暮らすようになったのは、ラオラオばあさんの予言でした。
子どもたちを猟師に殺されたトラが、村を襲い、家を壊して、人や家畜を食い殺すようになっていました。
王さまは、兵士にトラ狩りをさせようとしましたが、ラオラオばあさんは、王子を差し出すように いいます。
王さまは、「わたしのむすこを、いけにえにしろというのか?」と怒鳴りますが、「王子が危ないめにあうことはない」という予言にしたがい、王子を大きな森へ連れていきます。
長い間歩き続けて、疲れ切って木の下で眠ってしまった王子に、トラが近づきます。トラは、とびかかろうとしますが、知らないうちに、昔、自分の子どもをくわえたように、ウェン王子をくわえたのでした。それから、トラはウェンに寄り添うように暮らしはじめます。トラの隠れ家で、ウェンはトラの毛のなかに矢が刺さっているのを見つけ、手を出そうとしますが、傷に触れられ、また怒りがわきあがったトラに、襲われそうになります。しかし、ウェンの目を見たトラは、子どもトラの目を思い出します。
それから、トラは村を襲うことはなくなり、一方、ウェンはトラの子どもが覚えなければならないことを、習得していきます。
ある日、王子のことが心配になった王さまは、王子を取り戻すため、兵をだし、森に火を放ち、トラを追いつめめますが・・・。
トラがウェンを育てたのは、我が子を思う母親としての愛情が、怒りよりも強かったのでしょう。そして、トラの窮地をすくったのは、生みの親のお妃さま。二人の母親の愛情が交錯しています。
トラのもとで育ったウェンのりりしさも、伝わってきました。
昔話と思ったのですが、作者のあとがきには、パリのセルニュスキ美術館所蔵の青銅器(殷代)をながめて着想し、赤ちゃんの時トラに育てられた子文という男の子の伝説を合わせたとありました。