どんぴんからりん

昔話、絵本、創作(短編)などを紹介しています。

チョコレート戦争

PVアクセスランキング にほんブログ村

   チョコレート戦争/大石真・作 北田卓史・絵/理論社/1999年

 

 キャッチコピーが、「20世紀に生まれたロングセラーを21世紀のロングセラーに!」とあって、思わず手に取りました。

 大鵬の活躍がでてきて、1965年が初版。B5で200ページほど。

 冒頭、点数のことから取っ組み合いになったふたりが、級友の一言で、喧嘩をやめるところが出てくるのですが、昭和にはまだあった光景でしょうか。いまだったら大変なことになるところ。
 そしてもうひとつは、ショーウインドウからチョコレートの城を盗み出すなんてことは、いまの子は発想できるでしょうか。

 

 この町の人たち自慢は、金泉堂の洋菓子。このお店の洋菓子は、子どもにとっても大変な人気。いくつ食べたのが自慢の種。

 小学校六年生の光一が風邪で寝込んでいる妹のために、シュークリームを買ってあげようと、明と金泉堂にいきましたが、いざ注文しようとして慌てて外に出ました。おこずかいが足りなかったのです。熱で赤い顔をした妹の顔を思い浮かべ、ショーウインドウの一メートルちかいチョコレートの城をみていたとき、目の前のショーウインドウが、音をたてて、くだけちりました。

 光一と明は、金泉堂の店員や社長の谷川金兵衛によって、一方的に犯人だと決めつけられてしまいます。いたずらしても、素直にあやまりさえすれば、しからないと、店の支配人や社長がいいますが、おぼえがないので、じぶんたちがやったとはいえない二人。

 担任の先生が不在で、若い女の桜井先生がやってきて、二人の話を聞いて、「相手を、子どもだからといって、信用しようとなさらないのですか?」と、社長らにいった先生は、やりとりのすえ、「わたし、これまで、この店のケーキが大好きでした。でも、これからは、もうけっして、食べようとはおもいませんわ」と、啖呵をきります。

 

 名誉を傷つけられた光一は、抗議として店のシンボルであるチョコレートの城を盗み出す計画を立てます。

 いっしょだった明は、おばさんからもらった金泉堂のエクレールを食べているとき、桜井先生のことを思い出し、裏切り者になったみたいで、胸が痛みました。桜井先生ならチョコレートを盗み出す計画をとめてくれるにちがいないと、電話をしましたが、その電話は間違い電話でした。その結果、子どもたちがぬすみの計画を立てていることが、金泉堂にもれていました。

 一方、明は、新聞部の副部長のみどりから、「社会的にも重大な問題よ。ぜひ、新聞に、おおきくとりあげなくちゃならないことだわ」といわれ、記事をまとめました。そして、市の小学校の新聞部に、記事をのせてもらうようたのむことになりました。。

 

 お店もさるもの、店の看板をはこびだされたら、ただで広告をしてもらうようなものと、にせものをつくり、盗みやすいようにショーウインドウには鍵をかけず、逃げ出すのを制止することはありませんでした。

 金泉堂の社長は、大物です。店のショーウインドウからチョコレートがぬすまれたが、子どもたちの将来と、学校の名誉を考えて、おおごとにしないと、学校へ電話しました。

 

 金泉堂に大変なことがおこりはじめました。夕方まで、すっかり売り切れてしまうのが店の自慢ですが、洋菓子が百個も売れ残ってしまったのです。この十年間、十個だって売れ残るようなことは一度もなかったのです。味は変わりません。

 原因は、市内の五つの学校で発行されている学校新聞でした。子どもたちは、光一たちにたいする金泉堂の仕打ちにすっかりはらをたて、不買運動をしていたのです。

 

 それでも、子どもちが、犯人に違いないと思っていた社長でしたが、意外な人が、自分がやったと名乗り出ます。

 

 盗む行為はどうかとおもうところもありますが、濡れ衣をはらそうと、子どもたちが協力する信頼関係があります。

 
 おもちゃのピストル、それも空気銃のたまが発射できるようにしてあったものを、もっていたことが、疑惑をまねいていたにもかかわらず、子どもたちの言い分を信じる若い先生。いまだったらそこまで信じる先生がいるかどうか。
 
 靴磨きから、フランス人のハリーさんからすすめられ、フランスで六年間修業した社長が、自分の納得する洋菓子をつくりたいと、ふるさとの町に洋菓子店をひらくサブストーリも、きわだっています。
 
 そして、自分がやったと名乗り出るトラック運転手も立派。
 
 登場人物のキャラクターがいきいきして、みんないい人ばかり。
 
 子どもが親を殺したり、何の面識もない人を殺してしまうような殺伐とした世の中。 
 いつのまにか、おおらかさが失われてしまいました。大人も子どももかわり、「20世紀に生まれたロングセラーを21世紀のロングセラーに!」になるのかは疑問です。
 
 おいしそうな洋菓子がでてきて、食べたい気持ちに。エクレールは、いなずまという意味なんですね。
 
 大人が読んだら簡単すぎるようにも思いますが、大人向けであっても、余分なものをそぎおとしていけば、児童書とたいしてかわりません。