ねこのお客 かめのシェルオーバーのお話1/ルース・エインズワース・作 河本祥子・訳/岩波少年文庫/1996年初版
城が出てきますが、城壁に囲まれた町でしょうか。
大きな重い門がいくつもあって、どの門も二人づつの番人で守られていました。城のまわりには背の高いイチイの木がびっしりはえていて、とても高い垣根になっていました。子どもたちは、その上から外を見ることができませんでした。
この城におさない兄と妹がすんでいましたが、両親は、子どもたちが大ききなって、自分のことは自分でできるようになるまでは、安全な垣根の内側であそんでほしいとおもっていました。
兄と妹は垣根の向こうに何があるか見たくて、城の中をあるきまわっていました。
ある日、妹は庭のさびしいところに、穴が開いているのを見つけました。いなくなったことに気づかれないように、夜になって穴のあるところへいそぎました。
せまい穴を何とか通り抜けると、何本かの木が、まるく輪のようにはえていました。その木の輪で、みどりいろの服を着た人が踊っていました。髪の毛は金色でした。女の人はみどり色の裾の長いワンピースを着て、男の人はみどり色のスーツをきていました。みんな軽やかに踊るので、芝生に足の踏みあとはつきませんでした。そのうちのひとりが、手招きして、いっしょにおどろうとさそいました。ふたりの頭の上の木の枝にいた、いっぴきのリスが、「いっしょにおどってもだいじょうぶよ。だけど、すすめられても、一口も、ひとすすりも、食べたり飲んだりしちゃだめだよ。どんなにおなかがすいていても、どんなにのどがかわいても、ぜったいだめよ。」と、小声で言いました。
もういちどさそわれて、おどりの輪にはいると、ふたりはまるでアザミの綿毛のようにかるくなっているのがわかりました。ふたりとも知らない踊りでしたが、ほんとに上手に、ひとつもまちがえませんでした。
バイオリンの音楽はとてもようにで楽しいし、みんなはとてもやさしくしてくれました。何日も踊りに出かけたふたりはベッドに帰るたびに、つぎの夜を楽しみにまつようになりました。
あるとても暑い夜、兄は、「ひとくち飲むよ。くちびるをぬらすだけだよ。」と、踊り子たちが飲んでいるあまい飲み物を飲んでしまいました。すると兄の髪の毛は金色に輝き、服は見る見るうちに、踊り子たちとおなじみどり色にかわりました。
おんどりが夜明けを告げると、兄も、ほかの踊り子といっしょにいなくなりました。妹は両親に、いままでおこったことをぜんぶ話しましたが、信じてもらえませんでした。というのも垣根にあるはずの穴が見つからなかったのです。
ところが、妹は兄を一目でもみたいと、また穴をとおってでかけました。兄を連れ戻そうとすると、兄は、妹の記憶がありませんでした。
踊り子たちが、おんどりの鳴き声といっしょに姿を消し、妹が泣いていると、あのリスがあらわれ、兄を取りもどす方法を話してくれました。
リスの話してくれた方法で、兄はもとの姿にもどり、家に帰りましたが、自分が今までどこにいたか説明できませんでした。
何日かは、家にじっとしていたふたりでしたが、それでも一週間もすると、あの音楽や踊りがなつかしくなってきました。それに助けてくれたリスに、お礼も言いたいと思いました。しかし、あの穴はとじていました。
子どもたちは、ふたりとも、大きくなると有名な踊り手になりました。だれよりも足がかるく、たとえ一晩中おどりつづけても、けっして疲れることはありませんでした。
タイミングよくリスがあらわれ、方向を示してくれる昔話風の創作。ダメと言われていることを、やってみたくなるのは、子どもの好奇心の反映?
