どんぴんからりん

昔話、絵本、創作(短編)などを紹介しています。

黒いバイオリン

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   黒いバイオリン/ウルフ・スタルク・作 アンナ・ヘグルンド・絵 菱木晶子・訳/あすなろ書房/2001年
 

 妹のサーラはベッドで寝たきり。いつごろからか元気がなくなり、疲れやすくなっていました。<どんな病気かにはふれられず、物語は進んでいきます。>
 
 ぼくはいつもベッドの妹のそばで、話をしたり、本を読んであげていました。
 
 ある夜、サーラは、「バイオリンを弾いて」とささやきました。時間はもう十二時十五分でした。
 ぼくは、「パパを読んでくるよ」といいましたが、妹は、「いいの。お兄ちゃんに弾いてほしいの」サーラがまたつぶやきました。壁には、むかしパパがドイツで買ったとても古い黒いバイオリンがかけてありました。パパがバイオリンを弾かなくなってから、ずいぶんと時がたっていました。
 ぼくもまえになんどかバイオリンを弾いたことがありますが、いつも変な音しか出ませんでした。弾けないといっても、「弾けるわよ」というサーラ。今夜はなんでも、サーラのいうとおりにしてあげたかったぼくは、弓で弦をこすりますが、キイキイとなり、体がふるえるほど、不気味な音がひびきました。弾くのをやめようとすると、サーラが、「つづけて」というので、弓を動かしながら、左手の指で思いつくまま弦をおさえた。すると、いままではちがった音がした。まるで、風がモミの木を揺らしているような‥。とりに翼が、高い空をはばたいていくような・・。
 顔をあげると、サーラは眠っていました。「サーラ・・!」とよびかけると「眠らせておけ」という耳慣れない声。たけの長い黒いマントをはおり、頭には黒いベレー帽の見知らぬ男が窓辺の月の光の中にたっていました。
 
 ぼくは男の正体がわかっていました。「でていけ!」「いなくなってくれ!。おねがいだ!」
 
 ここで、妹は死が近いことがあきらかになります。
 
 まずはちょと休みたいという死神の前で、ぼくはふたたびバイオリンを弾きはじめます。
 <悲しみ><さびしさ>
 死神が、パチンと指を鳴らし、やめろと合図しますが、妹との楽しかった情景を思い出し、つぎつぎに弾いていったのは、<喜び>。そして<命への愛>。
 まるで、バイオリンを弾き終わったときが、妹の命のおわりのように。
 
 死神は、<喜び>の曲を聞くと、笑いすぎて息があがるほど。
 <命への愛>には、「こんなきれいな曲ははじめてだ」と、目をつむりながら・・・・
 
 死神にも変化がおきていました。眠りそうになるたびに、死神が、「やめないでおくれ。おねがいだ。もうすこし弾いてくれ」
 
 やがて朝になり、冬の弱弱しいお日さまの光が、部屋の中にゆっくりとさしこんできました。死神はマントをくるめて、枕代わりにして、ねむっていました。おでこのしわが消え、顔も土気色ではなく、もうちっとも死神らしくなかった。そして、サーラに目をやると、さっとほっぺたをなでながら、そのまましずかに姿を消しました。靴をわすれて・・。
 
 目をさましたサーラが、「今日はおきれられそう」といい、兄と外の雪をながめるところでおわります。
 
 
 
 先入観なしでタイトルにひかれて手にとった本ですが、随所にでてくる兄と妹との楽しかった思い出、、バイオリンをききながら死神の気持ちがかわっていくようす、そして妹の病気がよくなるのではないかという余韻は、まさにドラマ。
 モミの木にとまっていたカラスが、空高く飛び去るラストも象徴的でした。
 
 描写がこまやかで、バイオリンの音が聞こえてきそうでした。そして死神のイメージがかわりました。
 ちょっと長めで、語ったら30分程度でしょうか。この話を語りで聴いてみたいものです。
 
 スタルクはスウェーデンの作家です。