お静かに、父が昼寝をしております/母袋夏生:編・訳/岩波少年文庫/2015年
男の夢に死神が現れます。
男は「娘や息子がたくさんさずかりまいたが、子どもたちにのこしてやるものが、何一つありません。どうか、私が死んだ後も食べていけるよう財産をたくわえさせてください。それまで、どうか猶予をおあたえください。」と必死に頼み込みます。
心を動かした死神は「今回だけは魂をとらずにおいてやろう。だが、つぎに、おれがやってきたら、もう俺の手からは逃げられないぞ!」といいます。
この時、男は「このつぎのときは、お使いのものをまえもっておよこしください。死への恐れを取り除いて、あの世に旅立つ用意をしますから」とお願いします。
夢からさめた男は、長生きし、財をなし、孫やひ孫にもめぐまれます。
やがて死期が訪れ、男が床についているとき、死神があらわれます。
「心の準備ができるよう、まえもって使いのものをおよこし下さいと申し上げたはずですが、なぜ、いきなりおいでになったのですか?」という男に、死神は七回も使いをおくったといいます。
第一は目、最近はほとんど見えまい。
二つ目は耳、このごろは角笛さえも聞こえないだろう。
三つ目は歯、今は一本ものこっていないだろう。
四つ目は髪、すっかりぬけて、わずかにのこる髪も白くかわっているだろう。
五つ目は、背筋、弓のようにまがってしまったではないか。
六つ目は、足、いまでは杖がなくては歩けなかろうが。
七つ目は食欲、このごろはどんなものも口に合うまい。
老いは死との隣りあわせ。心の準備が必要なようです。死神もむやみやたらに魂をとることはなさそうです。