和歌山のむかし話/和歌山県小学校国語部会編/日本標準/1977年
夏のある日、万作さんという男が、おかみさんと喧嘩してついと家を出た。すると白い衣を着た山伏すがたのもんが手招きする。なにかおもしろいことがないかと山伏もんの誘いにのって、背中におわれると、そんまま地上を離れ、空へ。
大きな木の上に降りると、そこから見える村では、人形芝居の楽屋の準備。万作さんが見物したいというが、山伏はまだ日が高いからと、山伏たちが酒を飲んだり、歌ったり踊ったりしている場所へつれていきます。万作さんも思いっきり飲ましてもらい、いい気分になったところで、眠ってしまいます。
どのくらいたったかわからんとき、ふと目をあけた万作さんのまえには、おくさんが。
二日も何をしていたかとやかましく言われた万作さんは、山伏の言葉を思い出し、口をつぐみます。山伏から他言するなといわれていました。
それからも、おかみさんがガミガミやかましく言い出すと、黙っとることにした万作。おかみさんはおかみさんで、いくらいうても万作がすぐだまるので、つまらんようになって、あんまりいわなくなってしまいます。
夫婦の関係も微妙で、何か言われても黙ると、文句を言う方もいつか文句を言わないようになります。空神さまが、かわったいたずらをしました。万作さんの得難い体験でした。