どんぴんからりん

昔話、絵本、創作(短編)などを紹介しています。

おじいちゃんのまち

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   おじいちゃんのまち/野村たかあき・作絵/講談社/2004年新装版

 

 おかあさんとぼくは、ひさしぶりに おじいちゃんの家にいった。

 おかあさんは、「おとうさん ひとりぼっちで たいへんですから、わたしたちの家に、きてくださいね」といいいましたが、「わしは、ここで くらすで いいよ。」という。

 おばあちゃんがなくなってから、もう一年。ぼくは「さみしく ないの」ときいたら、平気だよといった。

 魚屋さんの前をとおると「おう、げんさんの まごかい。」ってタイのような目玉で ぼくを のぞきこんだ。

 八百屋さんの前をとおると「かわいいまごも いっしょだな。風呂の帰りに よんなよ。リンゴあげるからよ。」と、ぺらぺら しゃべった。

 お風呂屋さんの おばさんは「きょうは、ずいぶん はやいね。おや、おまごさん。」と。うしろにかくれている ぼくを のぞきこんだ。

 お風呂屋さんでも、畳屋のおじさんから 声がかかった。ガラス屋さんや、建具屋のおじさんからも 声がかかった。

 おじさんたちが、「げんさん、このまち でるんかい。」ときくと、おじいちゃんは、「いやあ、ずっと この まちにいるよ。」といった。

 ぼくは、番台のおばさんと また いっしょにくると ゆびきり げんまん、約束した。

 お風呂屋さんをでると、夕日が真っ赤で まぶしかった。

 ぼくは、おじいちゃんと、まちの人たちの会話をきいて、おじいちゃんは、ひとりぼっちでないんだねと思った。

 この町には、なくなった おばあちゃんの 思い出も いっぱい つまっているしね。

 

 版画の絵には、町の人たちのやさしさがいっぱい。そして手書き文字の文章も、いい味。

 

 いまは個人商店がほとんど姿を消し、町のコミュニティも希薄。ちょっと、なつかしい風景が広がっていました。